リンパ浮腫

腋窩リンパ節郭清を受けられた方へ

リンパとは

身体には血管系という血液の流れ以外に、リンパ系というリンパ液の流れがあります。リンパ液は末梢の組織で毛細血管では吸収されにくい蛋白質などを組織にある水分と一緒に回収する働きがあります。
リンパ系を構成する組織には、「リンパ管」と「リンパ節」があります。
「リンパ管」とはリンパ液を通す管です。皮下の脂肪の間を網目状に分布する細い管(直径0.02mmから0.2mm)で、全身に存在しています。末梢の細いリンパ管が少しずつ集合し最後の太いリンパ管は首のつけ根の太い静脈に流れ込みます。このリンパ管が集合する途中にリンパ節があり、腕のリンパ管は脇の下のリンパ節へ、脚のリンパ管は太ももの付け根のリンパ節へ集まり、その後太いリンパ管となって静脈へ流れ込みます。リンパ液の流れはとても遅く末梢から静脈に流れ込むまでには12〜24時間かかると言われています。
「リンパ節」とは、リンパ液の通り道である全身のリンパ管の途中にある関所のようなもので、わきの下や太もものつけ根に多くみられる小指の先ぐらいの柔らかい組織です。このリンパ節は細菌やその他の有害物質を取り込み、静脈に入ることを防ぐ役割があります。

全身のリンパ

リンパ浮腫とは

乳がんの手術では、術前の検査で腋窩(脇の)リンパ節への転移の可能性が高い場合や術中に腋窩リンパ節転移を認めた場合に、わきの下にあるリンパ節が切除されます。(腋窩リンパ節郭清(えきかりんぱせつかくせい))
これにより、リンパ管が途切れてしまい、リンパ液(体の組織に栄養をあたえ、老廃物を運び去る役目を持つ体液)の流れが悪くなってタンパクと水がたまり、腕のむくみを生じやすくなります。この状態をリンパ浮腫といいます。
リンパ浮腫は手術を受けた方全てに出るわけではありませんが、むくみが生じる方は手術後数年してからあらわれることが多いようです。一般的にリンパ浮腫は手術を受けた患者さんの1〜2割ぐらいの方にあらわれると報告されています。
また切除したリンパ節の範囲・数や手術の方法によって、浮腫の発現や程度はそれぞれ異なります。すなわち同じ手術を受けていても、むくみが出る方と、出ない方がいます。また同じ治療を受けても改善の程度は個人により大きな差があります。
また抗がん剤や放射線の治療後にも同様にむくみが生じてくることがあります。

リンパ浮腫の予防と治療の原則

リンパ浮腫の発症をおさえるには、日常生活での予防方法をよく理解してまず発生させないことが大切です。また常にスキンケアを行い手術側の腕の変化を早く見つけることも大切です。
早期発見し重症化を防ぐためには、ご自身で腕のチェックや自己測定を行うことが必要となります。これによりリンパ浮腫を早期に発見することが可能になります。
現在の医療技術では、リンパ浮腫を完治させることは困難ですが、ある程度までは症状を改善することができます。
逆に放置しておくと徐々に進行して悪化し、カチカチの腕になってしまいます。
残されたリンパ管をできるだけ活発に働かせてやることで、むくみも減少しますし、副行路(つぶれたリンパ管をまわり道する、バイパス)もますます発達してきます。
このため適切な管理・ケアにより良い状態を維持することが重要と言われています。

蜂窩織炎(ほうかしきえん)とは

リンパ浮腫のある手や腕は、リンパ液の流れが悪くなっているため、抵抗力が弱くなっている状態といわれています。また適切なスキンケアを行っていないと皮膚が乾燥しやすく、この乾燥状態が長く続くと皮膚に細かい亀裂が生じて細菌の侵入が容易になります。細菌が入ると細菌の排除が悪く、菌はその場で繁殖します。さらに悪化するとすぐに腕全体に拡がっていき、腕が赤くなり、熱を持つようになります。また人によっては痛みや痒み、発疹が出てくる場合もあります。 この状態を蜂窩織炎(ほうかしきえん)といい、リンパ浮腫治療のうえで最も注意しなければならない状態といわれています。このため蜂窩織炎となった場合は早期に診断し、治療を開始する必要があるため、医師の診察を受けることをお勧めしています。ご自身でできる対処法は、むくんでいる腕をやや高くするようにして、タオルに包んだ氷水などで赤くなった部位を冷やします。またマッサージや腕用のストッキングや包帯などで刺激を加えることはやめて、腕の安静を保ちましょう。さらに抗生剤を早めに使用すると、治るまでの時間が短くなるといわれています。

来院の目安

手術を受けた側の腕や手が、手術をしていない同じ部位と比較して以下の様な徴候が見られた場合は、早期のリンパ浮腫と考えられます。
 ・血管やシワが見えづらくなった
 ・毛穴が目立つようになった
 ・やや硬くなった
 ・つまみにくい状態が持続する
 ・動かしにくい(曲げにくいと感じる)
 ・5〜10秒ぐらい押すと、押した跡がはっきり付き戻りにくい
 ・自己計測により、左右差が持続する
すぐにご自宅でできる対処法は、むくんだ腕を挙上することです。
具体的にはバスタオルやクッションなどを腕の下に敷き、腕を約10〜15cm位上げた状態で休んでみましょう。軽度のむくみであればこれだけで改善することが多いです。
挙上して休んでいても上記の様な徴候が継続して見られ改善しない場合(3日〜5日ぐらい持続する)は、リンパ浮腫が発症して進行している可能性がありますので早めの外来受診をお勧めいたします。

 ・急に赤くなり熱を持つようになった(蜂窩織炎を疑う状態)
蜂窩織炎を疑う徴候が見られた場合は診察・治療が必要なため、早めに日中の外来を受診して下さい。

日常生活の注意点

リンパ浮腫の発症をできるだけ防ぐために、日常生活の中でいくつか気をつけていただきたいことがあります。一見守らなくてはならないことや、具体的な注意事項がたくさんあるように感じられるかもしれませんが、「過度に無理をしない」「皮膚を傷つけないようにする」ことが基本になります。工夫してこれからの日常生活に取り入れていきましょう。

表

※できることから無理なく日常生活に取り入れましょう。
※「長時間」や「重いもの」とは、個人によって感じ方が違うため個人差があります。ご自分の中で疲れを感じたり、症状が出現した時が目安であり、ご自分の体の調子に合わせて休憩を取るようにしてください。

手術を受けた側の腕や手のスキンケア

スキンケアのポイントは【清潔】【保湿】【保護】です。毎日皮膚に触れケアをすることは皮膚を良い状態に保つだけでなく異常の早期発見もしやすくなりますのでできる限り続けていきましょう

●保清
・汗をかいたらふく、お風呂で1日の汚れを落とすといった基本的なことを行っていきましょう。
・むくみで皮膚がデリケートな状態になっている時は、硬いタオルやスクラブ入りの洗浄剤の使用は避けましょう。石鹸を良く泡立て柔らかいガーゼやご自分の手のひらで洗うと良いでしょう。
●保湿
・皮膚を清潔にした後は保湿クリームで潤いを与えてください。
・できるだけアルコール成分の少ない乳液タイプの保湿クリームを使用しましょう。
・保湿クリームを塗る際は手のひらを使って手から腕のほうに向かって塗りこむと、まんべんなく塗ることができると同時にリンパ腋の流れを促すこともできます。
●保護
・傷や手荒れがある時の水仕事はゴム手袋の着用をお勧めします。
・深爪や無駄毛の処理により皮膚に小さな傷を作ってしまうことがあります。剃毛する場合には電気シェーバーなどで安全に行いましょう。
・夏の外出時は日焼け止めや虫除けなどで皮膚を保護しましょう。虫に刺された場合は掻き壊さないよう保護したり必要に応じて薄く痒みどめを塗ったりしましょう。
・小さな傷ができても必ず炎症を起こす訳ではありません。慌てずまずは清潔にし、様子を見てください。

腕の状態を知るために

手術後は浮腫の徴候が現れていないか、ご自分で腕の状態を観察することが大切です。定期的に腕の太さを計測するほか毎日のお手入れの時に腕に触れ、腕の状態の変化に早く気づくことができるようにしましょう。

計測表はこちらを印刷してご利用下さい。(PDF)

1.腕の周囲径を計測する

計測する日
毎月1日など測定する日を決めて定期的に測定しましょう。測定する時間は月によって違いが出ないようにし条件を一定にします。測定日以外にも腕のむくみを感じた時は計測をすることをお勧めします。

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初めて計測する時は手術をしていない側の腕の計測も行うと、手術した側との差を比較することができます。2回目以降は手術した側の計測のみで構いませんが、体重の増減があった時は改めて計測しなおしましょう。

計測時の注意点
平らな台の上に手の甲を上に向けた状態で腕を置き計測をします。
計測点に対し垂直にメジャーをあて、皮膚とメジャーの間に隙間ができないようにしましょう。写真のようなメジャーは自分で計測を行う際もずれにくくお勧めです。

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2.浮腫の状態を観察する
1.浮腫の広がりを確認する
img 中指の皮膚を親指と人差し指でつまみよせます。
浮腫がある場合には皮膚をつまみよせることが難しくなります。
2.浮腫の程度を確認する
img 皮膚面に指の腹をあてゆっくりと深部へと沈ませます。皮下組織に水分が溜まった状態では押した部分に圧痕が残ります。リンパ浮腫が進んだ状態では皮膚が硬くなり圧痕が残りにくくなります。
3.患肢や患肢に続く胴体などの浮腫の範囲を確認する

わきのしたの背中側、胸部、背部などに対して行います。左右の同じ位置の皮膚を親指と人差し指でつまみよせます。

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運動療法について 〜予防期〜

●目的
運動の目的は、手術した腕の循環を助けたり、首や肩の緊張をほぐしたりすることです。また、運動を行うことで、肩の関節の動きを広げ、腕の力を維持、向上させることも大切です。さらに、リラクゼーションにより、ストレスや不安を解消でき、体を動かす楽しさ、爽快感、受身ではなく自ら健康状態をよりよくする満足感などを味わうことができます。
●運動の量について
運動は、無理なく、疲れすぎない範囲で続け、生活の中にうまく取り込めるとよいでしょう。気持ちがいいと感じる程度で、翌日まで疲れや筋肉痛が残らないくらいを心がけてください。また、運動を定期的に行うことで、ご自分の身体のセルフチェックにつなげることができ、急激な症状悪化を予防することができます。
明らかな左右の腕の運動範囲の差や変化が生じた場合には、外来主治医にご相談ください。
●運動療法の紹介
【1】毎日の生活に取り入れたい運動(5〜10回)
1.肩回し運動(前回し後ろまわし) 鎖骨を大きくゆっくり動かすようにしましょう。
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2.深呼吸 リラックスした状態で、恥骨のあたりに両手を置き、鼻から息を吸って口から吐く、腹式呼吸をしましょう。
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【2】定期的に行う運動(少なくとも1週間に1回は行いましょう)
・セルフチェックを目的として行ってください。・腕のだるさを感じた時には、積極的に行いましょう。
1.肩の上下運動(肩をすくめる運動)
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2.腕の上げ下ろし運動(バンザイ)
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3.肘のまげ伸ばし運動
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4.肘を90度に曲げて脇をしめて、手のひらを内へ、外へ向ける運動(回内外)
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5.手首を反らす、曲げる運動
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6.指の曲げ伸ばし運動(グーパー運動)
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7.そのほか
タオル、ボールを使用して運動するのもよいでしょう。
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