乳癌の手術後に行う薬物療法には、化学療法(抗がん剤)と、ホルモン療法(内分泌療法)、分子標的療法があります。
(1) | 化学療法:化学療法に使う薬剤は、ファルモルビシン(一般名;エピルビシン、その頭文字でE)、ドキソルビシン(一般名;アドリアマイシン、頭文字でA)、エンドキサン(一般名;シクロフォスファミド、その頭文字でC)、5-FU(一般名;フルオロウラシル、頭文字でF)、メソトレキセート(一般名同じ、頭文字でM)、タキソール(一般名;パクリタキセル、その頭文字でP)、タキソテール(一般名;ドセタキセル、その頭文字でD)などがあり、これらを組み合わせ、FEC、EC、FAC、AC、CMF、TC(この場合のTはドセタキセル)などの治療を行います。これらの薬剤の組み合わせを「レジメン」といいます。効果的には、アンスラサイクリン系薬剤という部類のファルモルビシンやドキソルビシンを柱に使い、その後、もしくは同時にタキサン系薬剤という部類のタキソール、タキソテールを使う治療法が最も再発予防効果が高いと言われています。 |
(2) | ホルモン療法:乳癌は、女性ホルモンの働きで増殖するタイプ(女性ホルモンをエネルギーにするタイプ=ホルモン反応性)と、女性ホルモンに関係なく増殖するタイプ(女性ホルモンに関係なく増殖するタイプ=ホルモン非反応性)とに分かれ、前者が乳癌全体の2/3から3/4を占めます。これは切除した組織に、女性ホルモンに対する受容体が存在するか否か病理学的に検査を行いどちらのタイプかを判定します。そこで、前者のタイプであれば、女性ホルモンの働きを抑えることで、全身に広がっている細胞が根絶するという治療法です。 閉経前と閉経後では、女性ホルモンの環境は違っているので、投与前に採血を行い血液中の女性ホルモンの量を測定し、閉経前と閉経後に分け、投与する薬剤も違うものを使用します。閉経前は、ゾラデックス、リュープリンという注射薬で、卵巣から分泌される女性ホルモンを直接抑える(月経を止める)方法と、女性ホルモンが、がん細胞表面の女性ホルモンに対する受容体に結合するのをブロックするノルバデックス(一般名;タモキシフェン)という内服薬とを併用します。閉経後は、卵巣から女性ホルモンが分泌されない代わりに、副腎という臓器で作られた男性ホルモンが、脂肪組織に存在するアロマターゼという酵素により女性ホルモンに転換されていますので、このアロマターゼという酵素の働きを抑え、女性ホルモンの量を減らす薬剤がアロマターゼ阻害剤で、アリミデックス(一般名;アナストロゾール)、アロマシン(一般名;エキセメスタン)、フェマーラ(一般名;レトロゾール)などの内服薬があります。 |
(3) | 分子標的療法:分子標的療法というのは、がん細胞の表面から外に飛び出しているHER2蛋白を直接攻撃する方法です。このHER2蛋白は、細胞の周りにある増殖因子を取り入れるアームのようなもので、乳癌全体の4分の1の症例が、この蛋白をたくさん持っていて、HER2陽性乳癌という表現をし、細胞の性格が悪く、転移しやすいという特徴があります。そこでこの蛋白の働きを抑えるのが、ハーセプチン(一般名;トラスツズマブ)で、通常の抗がん剤を投与した後に、3週に1回の点滴を1年間行います。 |