化学療法は、体内の細胞分裂の盛んな細胞を攻撃します。その代表が、がん細胞ですが、その他、骨髄細胞(血液をつくる)、粘膜(消化管、目、鼻、のど・・)、1日に何ミリと伸びる毛根細胞、爪の細胞などに影響をおよぼすため、白血球(細菌感染を抑える)、血小板(出血を止める作用)の減少、吐き気、食欲低下、味覚障害、においに敏感・鈍感、涙目、脱毛、爪の変色・変化などの副作用が現れます。
恐らく、患者さんにとって、脱毛とならび抵抗感の強い副作用ではないでしょうか?吐き気の起こりやすさは、抗がん剤の種類によって様々で、必要に応じて吐き気止めを処方します。吐き気が起きてからの対処よりも予防が大事といわれていますので、吐き気がなくても、薬は飲んでいたほうがよいでしょう。
なぜなら、抗がん剤により吐き気や嘔吐を一度経験すると、抗がん剤と聞いただけで、病院に行くと思っただけで、化学療法センターに入っただけで、吐き気が生じる場合すらあります。抗がん剤の治療をはじめる時からの吐き気や嘔吐のコントロールは、その後の抗がん剤治療を円滑にするためにも重要です。
時に、お酒に弱く、乗り物酔いをしやすい、妊娠時のつわりがひどかった、精神的な不安が強いなどの場合、事前に、抗不安薬などの内服が効果的なことがありますので、申し出て下さい。
抗がん剤は血液を作る骨髄細胞にも作用するため、白血球や赤血球、血小板が減少します。白血球の中でも細菌感染を抑える役割の好中球が減少すると、風邪や肺炎などの感染症になりやすくなります。抗がん剤の種類により、好中球の下がるピーク日が異なります。だいたいその前後に病院を受診し、採血データをチェックし、好中球を増やす注射を使うことがあります。自宅では、白血球の下がるピーク日の前後は、手洗いやうがいなどによる感染予防が重要です。また、抗生物質、解熱剤を事前に処方しますので、病院に来る前に発熱した、のどの痛みが強い、口内炎がひどいなどの症状がある時は内服を開始して下さい。
また、赤血球が減少すると貧血が生じ、血小板が減少すると出血しやすくなります。症状が強い場合は、輸血が必要になる場合もあります。
脱毛は抗がん剤の副作用として生じやすく、女性として深刻な問題です。抗がん剤の種類によっても脱毛が生じる可能性には差があります。だいたい治療開始後2〜3週間で抜け始め、眉毛、まつ毛、鼻毛や体毛が抜けることもあります。抜け始める時に、頭皮の痛みを感じますが一時的なものです。まつ毛が抜けると、涙目になったり、鼻毛が抜けて、鼻血が出やすかったり、においに敏感・鈍感になったりもします。抗がん剤の投与が終了すれば、髪は生えてきますが、髪質の変化(白髪が多くなる、くせ毛になる、直毛になる、髪のこしがなくなる)や、前髪の生えるスピードが遅いなどと感じることがあります。
長髪の場合は、抜けた髪を多く感じやすいため、投与を受ける前にショートヘアに変えることも勧められています。また、かつら(ウイッグ)やバンダナ、帽子などを準備しておきましょう。育毛剤などは使っていただいても構いませんが、特に効き目があるわけではないので、無理に刺激を与えないほうがよいでしょう。
知り合いに脱毛している人がいたとしても・・・、きっとあなたは、変に詮索するようなことはしないでしょう。他人はそんなに気にはしていないものです。強く、明るくがんばりましょう。
ファルモルビシン、ドキソルビシンをはじめとするアンスラサイクリン系の抗がん剤は心臓に対して、収縮力(ポンプの力)を抑えたり、不整脈を出やすくすることがまれにあります。通常、術後補助療法で使用する用法・用量で起きることはありませんが、心臓がどきどきする、息苦しくなる、体にむくみが生じるなどの場合は、心臓への副作用が生じた可能性がありますので早めに申告して下さい。これらの薬剤を使用する前には、心機能が正常であることを確かめてから治療を開始します。また、この副作用は、抗がん剤投与終了後5年以上経過した後に見られることもあり、必要に応じて心機能の評価をすることがあります。
タキソールには神経に対する副作用があり、投与を受けた20〜40%の患者さんで、手や足のしびれ、ピリピリ感、刺すような痛み、感覚の鈍化、足裏の厚ぼったい感じ、ムズムズ感などの末梢神経障害がみられます。同じタキサン系の抗がん剤であるタキソテールにも神経への副作用はありますが、タキソールよりも頻度が少なく症状も軽度といわれています。どちらの薬剤でも、投与を中止することで症状は軽快しますが、長い方で2年くらい、違和感を感じることもあります。この症状に対して良く効く薬はありません。神経の血流をよくする、ビタミンB12、B6、Eを投与してみるのもよいでしょう。
アンスラサイクリン系薬剤やナベルビン(一般名:ビノレルビン、術後補助療法では使いません)は、血管に炎症を生じやすく、抗がん剤を投与した血管に沿った部分が痛む(血管痛)ことがあります。抗がん剤投与当日は投与部位を温め、翌日は冷やすとよいといわれています。また、これらの薬剤は、血管外に漏れると皮膚にびらん(皮がむけて、ただれる)、潰瘍(びらんの深いもの)など、やけどに似た変化が起きます。点滴中に異常な痛みを感じたり、針の周囲がふくらんできた場合は、すぐに看護師を呼んで下さい。
乳癌の手術、放射線で、妊娠・出産に影響はありませんが、抗がん剤の副作用として生理が止まり、そのまま戻らず閉経する場合があります。とくに日本人では、20代、30代で未婚の方、未出産の方が乳癌にかかることも多く、「これから出産を」考える方で、抗がん剤の治療が必要な場合は主治医とよく相談しましょう。
多くの患者さんが、抗がん剤治療を開始して1-2ヶ月すると、無月経になります。一時的なことがほとんどで若い方ほど又生理が再来し、妊娠・出産も可能になります。しかし一部の患者さんでは、抗がん剤治療が終了しても、生理が戻らずそのまま閉経します。これを早期閉経といいます。乳癌治療によく用いられるアンスラサイクリン系の抗がん剤では、30歳代の1割、40歳代の30〜40%程度が早期閉経を生じるといわれています。閉経した場合には、妊娠・出産はあきらめなければなりません。
対策として、抗がん剤の投与前に生理を止めて、卵巣の機能を温存させる工夫や、配偶者がいる場合には、受精卵の凍結保存などの試みもされていますが、いずれも確立された方法ではなく、未知の副作用がある可能性はあります。また、生理を止める注射を行っても、生理が再来しない方もいらっしゃいます。
しかし、治療が無事終了し、生理があれば、妊娠・出産が可能ですし、治療を受けたことで将来の胎児に悪影響が残るということもありません。生理が回復し、薬剤の投与終了から一定の期間が経っていれば、いつでも妊娠可能ですが、再発のリスクの高い術後2年間は妊娠を待つのが無難でしょう。また、ホルモン剤は、胎児に奇形を生じる危険性があるため、ホルモン剤を服用している最中、また、内服終了後最低3カ月、念のため半年程度は妊娠を避ける方がよいといわれています。