(1) | LH-RHアゴニスト製剤:ホルモン療法は、女性ホルモンをエネルギーとして増殖している乳癌細胞のエネルギー供給源を絶ち、がん細胞を死滅させる治療法です。したがって、体内の女性ホルモンの量が低下することによる症状が出ることがあります。個人差がありますが、ホットフラッシュ(ほてり、のぼせ)や発汗、うつ症状、頭痛、いらいら、悪心、食欲低下など更年期障害に似た症状が表れます。その他、皮膚のカサカサ、しみ、目のかすみ、視力低下、関節・骨の痛み、太りやすいなどと感じる方もいらっしゃいます。 ホットフラッシュは、体温調節機能が悪くなるために起こり、外は涼しいのに、急に汗が噴き出すようにでたり、逆に暑い日でも、寒気を感じたりします。ほとんどの方は徐々に慣れ、落ち着いてきますので、そのまま投与を継続しますが、あまり強ければ、漢方薬、ビタミンEの処方や、時にLH-RHアゴニスト製剤の注射を中止することもあります。症状が強い時は、無理をしないで主治医に報告し、対策を考えましょう。 一般的に、適度な運動と健康的な食生活は、再発を抑える効果が科学的に証明されていますので、家に閉じこもらず、外にでて明るく過ごしましょう。 |
(2) | 抗エストロゲン製剤:LH-RHアゴニスト製剤と同様に更年期障害に似た、ホットフラッシュ、吐き気、頭痛、食欲不振、いらいらなどを自覚します。同様に、漢方薬、ビタミンEの処方をしたり、内服薬の種類を変えたりすることもあります。また、この薬は生理を止める薬ではないので、基本的に生理は止まりませんが、中には、無月経や生理不順、おりものが増えるなどの変化が表れます。 その他、少ないながらも血栓症や子宮内膜がん(子宮体がん)の発症リスクを高める恐れがあります。子宮内膜がんは、ノルバデックス服用中の閉経後の女性に生じるリスクがあるため、そのような方は年1回の婦人科検診をお近くの婦人科でお受け頂いています。 子宮内膜がんの初期症状としては膣からの出血が一般的で、いつもと違う出血が起きた時、下腹部の違和感などを感じる時は、婦人科の受診をして下さい。これまでの研究から、子宮体がんの発症リスクよりも、ノルバデックスを内服することで、再発を抑えるメリットの方が大きいことが世界中で認められています。またデータは限られるものの、ノルバデックスと比較すると、同じ抗エストロゲン剤のフェアストンの方が子宮内膜がんの発症リスクは少ないとされています。 血栓症は、血液の固まり(血栓)が血管の中につまる病気ですが、下肢の深いところにある静脈に出来やすいとされています(下肢深部静脈血栓症)。普段から、良く歩いて、血液の循環をよくするようにしましょう。症状としては、下肢の極端な腫れ、痛み、下肢の広い範囲の変色(黒ずみ、紫色)などが表れます。このような症状がある時には、主治医に報告して下さい。 普段、内服している高血圧、糖尿病、コレステロールの薬などは、今までと変わりなく内服を続けて下さい。不整脈、心臓の手術後などでワーファリンという血液を固まらないようにする薬を飲んでいる場合には、ワーファリンの効果が増強する場合がありますので、事前に申し出て下さい。 その他、歯科、整形外科、風邪をひいて近所の内科を受診するなど、処方された薬は普通に内服していただいて構いません。 |
(3) | アロマターゼ阻害剤:アロマターゼ阻害剤は、骨粗しょう症や骨折のリスクを高めることが知られています。そのため、年に1回、骨密度を測定し骨の健康状態をチェックすることが勧められています。骨密度の状態により、カルシウム製剤やビタミンDを処方します。ただし、これらの薬を内服しているだけでは骨密度は良くなりませんので、普段から適度な運動(日光にあたる)、アルコールを控え、禁煙することも骨の状態を維持するのに有効です。それでも、骨密度の低下がある場合には、骨粗しょう症の治療薬としてビスホスホネート整剤(骨を固くする内服薬)が処方されることもあります。 その他、手のこわばり、関節痛(手の指、手首、足首、膝)を感じる方がいます。中には、ドアノブを明けにくい、手にしたものが落ちてしまう、などと自覚する方もいます。これらは、内服を始めてから、1年くらいの間に症状として表れ、だいたい落ち着き、年々ひどくなることはありません。対策としては、手足を冷やさず、マッサージをしたり、ビタミンB12、E、B6などを処方したりします。あまりに症状がきつい時には、アロマターゼ阻害剤の種類を変えたり、ノルバデックスに変えることも検討します。これらの症状が直接、骨密度の低下と関連しているかどうかは不明ですが、年齢的にも、指の関節の変形が起きやすかったり、手のこわばりが出やすかったりします。さらに腱鞘炎、ばね指(指を曲げると、戻りにくく、戻るときに勢いよく戻る。年齢的に指の靱帯が厚くなるためにおこる)、関節リウマチなどが偶然に起こることもあり、指のレントゲンやMRIを撮影して、骨・関節の変化、腱鞘炎の有無などを確認し、必要に応じて整形外科の受診を勧めます。 また、頻度も少なく、程度も軽いもので、ほてり、頭痛、不正出血などを自覚する方もいます。これらも症状により、内服薬の種類を変更したりします。 いずれも、普段内服している薬は、そのまま内服を続け、風邪をひいた際の内科でもらった薬、歯科、整形外科などでの痛み止めはそのまま内服して構いません。時に整形外科で、乳癌の予防、骨粗しょう症の治療薬としてエビスタ(一般名:ラロキシフェン)を処方された場合、主治医に報告して下さい。アロマターゼ阻害剤との併用に関して、安全性、有効性が確立していません。 |